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弁護士日記

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斎藤正人著「この歯医者がヤバイ」(幻冬舎新書)を読んで

2014年10月31日

 この本の著者である斎藤正人氏は、1953年生まれで、神奈川歯科大学大学院を卒業後、歯科医をしているという人物である。私が、この本を買った理由は、斎藤氏が、私の長年の持論である「歯を抜かない治療」を頑なに守っている姿勢に共感したためである。
 本の内容を読んでみて驚いた。果たしてこのようなことまで書いてしまって、斎藤氏が所属する歯科医師会から抗議を受けないか、他人ごとながら心配になった。本の目次をみると、例えば、「医療よりも儲け重視のトンデモ歯科医師たち」、「腕のいい歯科医師ほど儲からない」、「歯科医師の得意技は『手抜きと過剰』」、「医者になれなかった者が歯医者になる」、「18歳でポルシェに乗っていたアホ歯学生」などと書きたい放題だからである。
 しかし、そこに書かれている内容はまともであり、私も大いに共感を覚えた。至って当たり前のことが書かれているのである。
 斎藤氏によれば、抜かなくもいい歯を抜いて、インプラント(人口歯根)を勧めるというようなことは、多くの歯科医師がやっているとのことである。しかも、インプラントは、まともな材料を使うと非常に高価であり、また、その患者にインプラントが適するか否かを慎重に調べる必要があるにもかかわらず、利益をあげるために安易に行われている現実があるという。
 そして、斎藤氏によれば、インプラント治療には時間がかかり、丁寧に行うためには、相談から始まって、インプラントの手術、補綴まで、通院回数は計10回以上必要とのことである。斎藤氏は、ネットで宣伝する「来院初日即手術」など論外であると切って捨てる。
 歯は、いったん抜いてしまったら、決して再生しない。だから、その大切な歯が虫歯になったような場合は、むやみに抜いたり、削ったりしないで、根管治療を行うことが大事なのである。根管治療とは、斎藤氏によれば、虫歯菌に侵されて傷んだ歯髄を取り除き、根管を広げ、きれいにして充填剤を入れてふさぐ治療法とのことである。私も歯科医院で、これに近い治療を受けたことあった。
 この本は歯科医を取り扱った本であるが、斎藤氏の分析によれば、日本の歯科医療が行き詰まった原因として、3つの要因が書かれている(20頁)。第1に、虫歯患者数の減少、第2に、歯科医師の増加による激烈な競争、第3に、現実に合わない歯科保険制度とのことであり、私も第2番目の要因は知っていた。
 ここで書かれている分析は、弁護士にもあてはまる。決して他人事ではないのである。第1に、訴訟の提起件数は、かなり前から減少傾向にある。第2に、弁護士の数が過剰となっており、今では、せっかく司法試験に合格しても弁護士登録しない者が相当の割合に達している。数十年前では、全く考えることもできなかった現実である。第3に、アメリカ流のロースクールをまねた法科大学院の制度が機能しなくなってきている。廃校が続々と出ている。
 国が、重要な政策を立案する場合は、アメリカやヨーロッパの制度を参考にすること自体はよいが、しかし、同時に、日本の伝統・文化、国民性、風土、歴史などの多様な要素を十分に考慮する必要がある。そういう慎重な姿勢を欠いた司法政策が、上記のような困った事態を招いたといってよいであろう。
           

日時:11:26|この記事のページ

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