近年、中国による海洋進出が日増しに強まっている。南シナ海や東シナ海における海洋権益を声高に主張し始めている。中国の主張には、何らの根拠はなく、分かりやすく例えれば、泥棒が他人の財物を奪おうとして「おれによこせ」と脅迫しているようなものである。
ただし、中国にとって、目の上のたんこぶのような存在がアメリカである。アメリカが睨みをきかせているため、余り無体なことはできない。例えば、他国に対し宣戦布告を行い、戦争を始めるような馬鹿なことはしない。
中国という国は、非常に悪知恵が働く国である。したがって、戦争には至らない状況下のまま、自国の利益を獲得しようとする。よく言われることであるが、少しずつ既成事実を積み重ねて、相手国が根負けをすることを狙う。例えば、尖閣諸島が我が国の固有の領土であることは当たり前のことであるが、中国の艦船や共産党の命を受けた漁船団が尖閣諸島の日本の領海に侵入する行為を繰り返す。ここで、我が国が根負けをしてしまうのを気長に待つという方法をとっている。しかし、日本としてはそのような中国のやり方を見過ごすことは絶対にあってはならない。
さて、今回、渡部氏の本によれば、中国の軍隊である人民解放軍は、中国共産党の軍隊であり、中国という国家の軍隊ではない(50頁)。指揮権は、中国共産党中央軍事委員会にある。そして、人民解放軍の目標とは、世界最強の米軍と戦ってこれに勝つことにあるという(53頁)。
米中の軍事衝突の可能性について、渡部氏は4つの可能性をあげる。第1は、米中が真っ向から軍事衝突する場合であり、第2には、尖閣諸島をめぐる衝突であり、第3の場合が台湾紛争、第4の場合が南沙諸島における紛争をきっかけとするものである。いずれの場合であっても、日本は無関係では済まず、戦争に巻き込まれる。
私が見たところ、第2と第3のケースによって米中戦争が勃発する可能性が高いと思う。特に、第2の場合は、我が国固有の領土である尖閣諸島に対し、中国が軍事侵攻を開始するのであるから、我が国がこれに対して率先して防衛する立場にあることは当たり前のことである。
その場合、渡部氏は、中国の人民解放軍がいきなり攻めて来るのではなく、準軍事組織による大規模な侵攻が行われる可能性が高いと説く(229頁)。その点は、私も同感である。
なぜなら、人民解放軍の海軍の軍艦が攻めてきた場合、日米安保条約に基づいて米軍が直ちに介入することになるため、中国としては勝手が悪いのである。そのため、軍事訓練を受けた武装漁民(海上民兵)が乗った何百隻もの漁船が尖閣諸島の領海になだれ込み、武装漁民(海上民兵)が島に上陸してこれを占領するという作戦に出る可能性が高い。
その場合、我が国が対処できる現場の職員(実働部隊)は、現行法による限り、海上保安官や警察官に限定される(231頁)。しかし、数で圧倒する中国に対し、僅かばかりの数の海上保安官や警察官が適切に対処できるとはとうてい思えない。
渡部氏は、このような事態に対処するための方法として、二つのものをあげる。一つは、海上保安庁の能力と権限の拡大・強化である。他の一つは、自衛隊に対し、領海警備の権限を付与するための立法を行うというものである。私も、これには大賛成である。
最後に、渡部氏の見立てでは、中国の習近平は、日本に勝つためには、あらゆる手段を講じてくるであろうし、その場合、国際法も民主主義国家における倫理もすべて無視して攻撃をしてくるであろうと予想する(247頁)。例えば、我が国に発生した大規模自然災害(主都直下型の大地震)に乗じて攻撃を開始する可能性があるという。これには私も全く同感である。
中国という国は、力の信奉者である。決して平和の愛好者ではない。であれば、我が国の平和と安全を守るには、中国の野望を打ち砕くに足る強力な軍事力を確実に整備することが肝要と考える。そのためには我が国の経済力のさらなる発展も必要となる。
また、専守防衛とは、防衛一本やりという狭い意味ではなく、我が国を攻撃してきた敵国の軍事力・軍事基地を叩く能力も含むものと解釈を変更する必要がある。その意味で、防衛の要ともいうべき潜水艦部隊の数を、最低でも今の2倍の数とするほか、中国本土の爆撃も可能な長距離爆撃機や強力な巡行ミサイルの開発も急務と考える。
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