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弁護士日記

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中村仁一著「大往生したけりゃ医療とかかわるな」(幻冬舎新書)を読んで

2012年03月12日

 今回取り上げるのは、中村仁一さんという医師が書いた本である。著者の中村仁一さんは、京都大学医学部を卒業後、民間病院長を経て、現在では老人ホームの附属診療所長という経歴の持主である。
 近い将来、我が国の人口に占める老人(私の場合は、一応65歳以上と定義する。)の割合は、過去の歴史に例をみないほど増加することが確実である。我が国は、いまや老人大国に変貌しようとしているのである。
 中村氏は、この本の中で、医療が年寄の自然死を邪魔していると指摘する。中村氏によれば、過剰ともいい得る医療が、お年寄の自然死を妨げ無理に生かそうとしていると批判する。例えば、お年寄が食べられなくなると、鼻から管を入れて無理に栄養を補給しようとしたり、あるいは胃瘻といって腹部に穴を開けてそこからチューブを通じて水分や栄養を補給する医療行為が始まる。
 しかし、そのような措置は、これから楽に死んでゆこうとするお年寄を逆に苦しめることになると指摘する。これには、私も同感である。人間は、誰しも死を免れないのである。そのお年寄が天寿を全うしようとしている時に、周囲の人間が無理に延命を図ろうとするのは、一体何のためか?お年寄本人がそのような延命措置を受けることを事前に積極的に希望している場合は別として、少なくとも余分の苦痛を与えることには疑問がある。
 中村氏によれば、自然死とは、いわゆる餓死を意味するとされる。そして、餓死の実態は、飢餓、脱水、酸欠状態、炭酸ガス貯留という4つの状態を示すという。いずれの状態も、その状態に置かれた人間は、意識が低下して脳内にモルヒネ様の物資が分泌されることになると説く。また、体内に炭酸ガスが貯まるとその麻酔作用によって死の苦しみを防いでくれるという。したがって、死というものは自然の営みであって、生きている者が想像するほど過酷なものではないと説く。 
 確かに、自分の経験に照らしてもうなずける。昔、脳梗塞に倒れた祖母が自宅で介護を受けていたときも、日数が経過するに従って意識が朦朧となり、やがて、かかりつけの医者の判断で栄養補給を止めたことによって間もなく自然に死亡していった昔の記憶がある。ここで仮に無理に延命措置をとっていたら、余計に苦痛を与えることになっていたであろう。
 また、中村氏は、では、お年寄が死期を迎えた際に、なぜ家族が医師に対し、延命措置を頼むのかという問題を提起している。それには二つほど理由があり、一つは、医師の側から延命措置を家族に勧めることがあるという点である。これは医師の側の論理である。もう一つは、患者の側の理由である。それは、生前に親孝行をほとんどしてこなかった子らが、自責の念から延命措置を医師に頼むという場合だという。
 しかし、仮に、そのような延命措置を開始した場合、本来であれば安らかに天寿を全うしていけたはずのお年寄りには悲惨な運命が待っている。何年もの間、自分の意思とは無関係にベッドの上に寝かされ、自分の意思で動くこともままならぬ苦しみに満ちた人生を送ることになるのである。これは、悲劇以外の何物でもない。
 さらに、中村氏は、現在の医学界に対しても批判を向ける。普通の人間は、年をとれば誰でも病気になるという自然の法則を忘れ、多くの医者は、「年をとっても健康でなければ何もなりませんよ。健康ほど大切なものはありません」と脅し半分で説教をするというのである(本の170頁参照)。
 中村氏によれば、そのような多くの医者の論理はおかしいものであって、「老い」を「病気」にすりかえようとしていると批判する。つまり、人間老いれば誰でも必然的に病気が生ずることは事実であるにもかかわらず、「病気」であれば治すことができるはずであると考えて、老いを正面から認めようとしない態度はおかしいと指摘する。
 この点、私も同感である。お年寄りが病気をした場合に、その健康を回復させるために費用を度外視した医療行為(投薬、手術、リハビリ等)を行うことは、大いに問題であって、私には違和感がある。そのようなお金があるのであれば、将来の日本を背負って立つ子供の育成に国家予算をつぎ込むべきではないのか。若者がいない国家は滅びるほかないのである(仮に滅びなくても、これからは世界の中の三等国として日本国民は肩身の狭い思いをして生きながらえるほかない。)。
 私に対し、もし、今後、福祉予算としてどの分野に重点を置くべきかと問われれば、子供や青少年の育成に福祉予算の大半を注ぎ込むべきであると答える。それ以外の正解はあり得ないと思うからである。                             

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