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弁護士日記

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 最新交通事故判例紹介(その5)  事故によって重篤な後遺障害が残った被害者の兄弟について、慰謝料請求を否定した事例

2017年11月15日

 交通事故によって被害者が死亡した場合、一定の範囲の遺族は、被害者が死亡したことによって受けた精神的損害を加害者に対し賠償請求することができる。これが近親者に対する損害の賠償という条文であり、民法711条に規定がある。
 ただし、民法711条を根拠として加害者に対し精神的苦痛を受けたことによる賠償請求(いわゆる慰謝料)をすることが認められているのは、「被害者の父母、配偶者及び子」に限定される。また、民法711条が使えるのは、被害者が死亡した場合である。
 そうすると、民法711条の明記された者(被害者の父母、配偶者又は子)以外の者は、どれほど精神的苦痛を受けても、加害者に対し慰謝料の請求をすることができないのかという問題を生ずる。また、被害者が一命をとりとめたが、被害者が死亡したのと同様の精神的苦痛を親族が受けた場合は、慰謝料の請求をすることができないのは、やや酷ではないかという議論が生ずる。
 そこで、最高裁は、後者について、仮に被害者が生きていても、「死亡に比肩すべき精神的苦痛を受けたときは、近親者は、民法709条及び710条を根拠に、加害者に損害賠償請求することができる」との判断を示している。
 前者についても、最高裁は、昭和49年の判決において、民法711条に明記されていない人物であっても、民法711条を類推適用することによって、加害者に対する慰謝料の請求が可能であるとの判断をしている。ただし、最高裁は、同条所定の者と実質的に同視すべき身分関係が存し、被害者の死亡によって甚大な精神的苦痛を受けたことを、被害者の近親者の方で立証する必要があるとの立場を示している。
 折から、東京地裁平成28年9月6日判決は、被害者が交通事故で後遺障害等級1級に認定されたが、裁判で被害者自身とともに原告となった妹と弟について、「民法711条所定の者と実質的に同視することができる身分関係が存在することを認めるに足る事実を具体的に主張立証しないから」という理由で、妹と弟の請求を棄却した。
 この点について、弁護士の立場に立てば、この事件を被害者らから受任した弁護士は、初歩的知識として、この点を積極的に主張立証する必要があることを心得ておくべきだった。しかし、初歩的知識を欠いたため、裁判でこの点を積極的に主張立証することを失念し、結果、敗訴となったのではなかろうか。弁護士としては、あってはならないことである。
 私も、別の事件でこれに似た弁護士に会ったことがある。私が受任した事件は、ある老女が歩行中、反対方向から来た中学生に当たられ、転倒して死亡したという事件であった。私は、この老女の孫も原告に加え、孫も重大な精神的苦痛を受けたとして、民法711条の類推適用に基づいて慰謝料の請求を行ったことがある。
 これに対し、愛知県下において他を圧倒する数多くの弁護士が在籍する某法律事務所の弁護士が加害者側の代理人となった。その弁護士は、G地方裁判所において、「そのような主張は、いわゆる主張自体失当であり、無意味である」と反論した。
 これを聞いた私は、驚いた。法律が何も分かっていないと感じたからである。主張自体失当とは、要件事実にならない事実を主張することをいうのであるから、上記の場合とは全く異なる。
 上記の場合は、孫が、果たして民法711条所定の人物と同視できるか否かが問われているのであるから、立証の程度如何によって、類推適用が肯定され、あるいは否定されるという結論となろう。したがって、この場合は、「主張自体失当」ではない。
 このように、経験が乏しい弁護士は、とんでもない誤解をしていることがあるので、要注意である。
 なお、この事件は、最初は単独事件であったが、途中から合議事件に格上げされた。裁判の途中で、裁判長の方から和解の勧告があった。その金額は、提訴前に加害者側に請求した金額を上回る金額であったため、私としても和解勧告に応じ、この事件は和解で終了した。上記の弁護士は、ずる賢い「古狸タイプ」の弁護士では全くなかったため、比較的スムーズに和解の成立に至ったものである。

日時:16:20|この記事のページ

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