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弁護士日記

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2021年7月21日付け岐阜地裁判決に疑問あり

2021年07月23日

 2021年7月22日付けの岐阜新聞は、同年7月21日、岐阜地裁(鳥居俊一裁判長)が、岐阜県土岐市図書館で女性が迷惑行為を繰り返したことに対し、土岐市教育委員会が行った入館禁止処分を違法として取り消した判決について報道した。
 私は、当事者双方とは全く利害関係がなく、また、この判決文の全文を見たわけでもないため、以下に記す点について正確性を請け負うことはできないが、この判決の内容について大きな疑問を感じたので、以下、私見を述べる。
 そもそも土岐市図書館のような公立の図書館は、地方自治法では、「公の施設」と呼ばれる(自治法244条1項)。上記新聞の記事によれば、今回、原告となった女性は、土岐市図書館の蔵書の管理方法など、図書館の運営に深く介入し、1日の間に図書を借りたり、返却したりを繰り返し、あるいは1日で153冊の図書を借り出すという迷惑行為を行った事実がある。
 そのような迷惑行為に対し、土岐市図書館は、2019年11月、市教育委員会が制定した「市図書館運営規則」に基づき、女性に対し入館禁止処分を下した。女性は、当該入館禁止処分を違法なものと主張し、その取消しを求めて提訴したものと推測される(取消し訴訟)。今回の岐阜地裁判決は、原告である女性の主張を認め、当該処分は違法なものであるとして、これを取り消した(なお、慰謝料の請求については大幅に減額してその一部を認めた)。
 しかし、この判決には賛成できない。つまり、土岐市教育委員会の行った入館禁止処分は適法なものであると考える。以下、理由を簡単に述べる。
➀ 岐阜地裁判決は、土岐市教育委員会が行った入館禁止処分について、「法令や条例に、全面的かつ無制限の利用禁止を認める規定がない」ことを掲げる。しかし、地方自治法244条2項は、普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならないと規定する。したがって、正当な理由があれば、公の施設である図書館の利用を禁止することもできる。また、ここでいう禁止は、事案の内容に応じて、有期の禁止から無期限の禁止まであり得る。具体的にどこまで禁止するかは、事案に応じた行政裁量権の適正な行使の問題として処理される。行政裁量権行使に当たっては、平等原則や比例原則などの一般的な原則が適用される。今回の女性の迷惑行為は、図書館の利用者として守るべき最低限のルールを超えており、土岐市図書館の正常な運営を現実に妨げる程度が極めて大きい。刑法が禁止する業務妨害罪の実行行為に等しいと評価できることから、無期限の入館禁止処分は相当なものであると言い得る。
 この点、岐阜地裁は、法令や条例に全面的かつ無制限の利用禁止を認める規定がないとしているが、しかし、迷惑行為の内容を精査・検討した上で、端的に地方自治法244条2項を適用して、無制限の入館禁止処分も可能であると解される。
➁ 岐阜地裁判決は、「知識や意見、情報を得るという憲法上の価値を根拠なく侵害しており、原告に精神的な損害が生じたと言わざるを得ない」と判示する。しかし、この判決内容も不合理であり、このような結論は認め難い。知識や意見、情報を得るという権利は、おそらく「知る権利」を指しているものと推測される。確かに、知る権利は憲法の保障の下にあるが、しかし、今回の女性は、完全な自由意思の下、土岐市図書館に対し違法性を帯びる程度の迷惑行為を行っている。そのような場合、自ら招いた結果として、知る権利が一定程度制約される結果となっても致し方ない。権利の濫用は認められないのである。また、岐阜地裁判決が「根拠なくして侵害している」と述べている点も法律解釈に誤りがあると言わざるを得ない。反対説があるかもしれないが、上記のとおり、地方自治法244条2項に根拠規定はあると解する。
➂ 地方自治法244条の2第1項は、地方公共団体は、「公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない」と規定する。これを条例主義と呼ぶ。判決文には表れていないのではっきりしたことは不明であるが、おそらく土岐市教育委員会においても、上記地方自治法の規定を受けて土岐市条例が定められていたのではなかろうか。そして、その条例をより具体化するために、行政基準として性格を持つ「市図書館運営規則」が制定されていたと推測する。土岐市教育委員会は、この運営規則に基づいて今回の無期限入館禁止処分を下したものと思われる。
 ここで、地方公共団体の職員が誤解しがちな点がある。それは、上記のような運営規則は法規ではなく行政規則にすぎないため、運営規則には、市民や裁判所を拘束する効果がないという点である。ここを間違えて、運営規則に書いてあるから、相手方市民もこれを遵守する法的義務があると勘違いしている職員が少なくない。法的拘束力があるのは、法律、政・省令、条例、長の規則等である。
➃ 仮に、今回の岐阜地裁判決がこのまま確定した場合、土岐市教育委員会が出した今回の入館禁止処分は、処分時に遡及して効力を失うことになる。そうすると、原告である女性は、再び迷惑行為を再開するのではないかという危惧がある。以前とは違って、「私は裁判に勝ったのだ」という自信から、改心することなく今回問題となったような迷惑行為をエスカレートさせる懸念さえある。仮にそうなった場合、土岐市図書館は、職員の精神的負担を考慮して、閉館する道を選ぶかもしれない。結果、地域の住民としては、多大の不利益を被ることになる。まさに、公共の福祉が毀損されることになるかもしれないのである。一体、今回の判決を書いた鳥居俊一裁判長は、仮に上記のような不測の事態を招いた場合に、どのような形で道義的責任を取るつもりなのであろうか?
➄ 土岐市としては、必ず名古屋高裁に控訴して、今回の問題点だらけの判決を取り消してもらうべく、最大限の努力を払う必要があると考える。以上、地方自治行政の担当者としては、担当する法律と条例を日頃から研究し、基礎的な行政法理論を身に付ける努力が求められる。

日時:20:13|この記事のページ

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