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弁護士日記

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8.29朝日社説は納得できない

2010年08月31日

 本年8月29日に、朝日新聞朝刊に、司法修習生の給費制に関する社説が出ていた。その内容は、実にお粗末な驚くべきものであった。朝日新聞の社説のうち、過去に書かれた幾多の司法制度改革関連のものについて感想を述べれば、「何も分かっていない」「単なる評論家的な気楽な意見にすぎない」という印象が濃厚である。過去の社説で、私が「なるほど」と思える内容の社説は、ひとつもない。
 今回の社説も同様であり、全然賛成できない。朝日新聞の社説の要点は、司法修習生に対し、戦後、一貫して認められていた給費制に代え、今年の11月から、「無利息・5年据え置き・10年返済」という制度に変えることは問題ないということである。
 これに対し、日弁連を初めとする各地の地方弁護士会は、こぞって反対している。日弁連の主張は、給費制をやめて、生活費を司法修習生に貸しつける方法に移行することに反対するものである。
 その根拠は、裁判官・検察官・弁護士になるには、司法試験に合格することが条件となるのであるが、その前提として、法科大学院を卒業していることが前提となる(ごく一部に法科大学院を経ないで司法試験に挑戦する途も用意されているが、それはごく例外である。)。そうすると、大学の学部を卒業するのに、最低でも4年かかり、さらに法科大学院を卒業するには、最低2年かかる。つまり、裁判官などの法曹資格を得るためには、どんなに優秀な若者であっても、最低6年間かかるということである。
 この6年間の学費をどうまかなうかが問題となるが、一部の金持ちの子弟は、親が学費を全部用意してくれるから、何の心配もなく、司法試験に専念できる。では、一般庶民の子供はどうかといえば、親からの学費援助もあるではあろうが、それだけで6年分の学費を完全にまかなうことは難しい。そこで、アルバイト、奨学金などの他に、教育ローンを使って勉強に励むほかないのである。
 つまり、司法試験に合格するまでに、普通の家の子供は、何らかの借金を抱えざるを得ないということである。そして、猛勉強の末に司法試験に合格しても、すぐに弁護士になれるわけではない。いったんは、司法修習生という身分に置かれて、1年間、見習生のような立場で、裁判所、検察庁および弁護士会で修習つまり勉強をする義務があるのである。
 かつては、司法修習生の期間は2年間であった。私も、2年間は、司法修習生として国から給与をいただきながら勉学に専念することができたのである。
 ところが、国は、財政難を理由に、給費制を今年の11月から廃止し、生活費を修習生に貸し付けようとしているのである。これについて、朝日新聞の社説は、賛成をしているのである。社説には「経済状況も進路も様々な修習生を一律に手厚く遇する必要があるのか、疑問だ」と実に見識を欠く意見を述べる。信じ難いことである。
 司法修習生は、現在、年間約2000人であり、国家が給費制を維持するために要する予算は、たったの60億円である。僅か60億円を国家が負担することによって、若い司法修習生が、経済的なことに煩わされることなく、司法修習に専念できるのであれば、国民としても安いものである。
 仮に、司法権という国家権力の一翼を担う若い法曹の卵のために、年間60億円を支出することが惜しいという意見を曲げようとしない人物がいるのであれば、その人物の見識を深く疑わざるを得ない。その意味で、今回の朝日の社説を書いた人物に対し、猛反省を求める。

日時:16:49|この記事のページ

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